公害被害から生活と環境の完全回復を求める決議案への賛成討論

私の元ボス弁である渡辺淑彦弁護士(浜通り法律事務所・いわき市)の発言(FBでのもの)です。
皆さんにご覧いただきたいと思い、以下、引用します。

・・・

先週の土曜に行われた福島県弁護士会の総会で決議案への賛成討論。

いわき支部の渡辺淑彦です。
この公害被害から生活と環境の完全回復を求める決議案に対し、賛成の立場から一言述べさせていただきます。

まず、最初に、大熊町から避難してきた老夫婦からのご相談を紹介させてください。
主に話していたのは品のいいおばあちゃんの方でした。おじいちゃんは疲れた様子でした。

「今の仮設に来るまで7回引っ越しました。夫婦二人で、『老後は安泰だね』って言っていたんですよ。おじいさんはね、毎日、山にキノコ採りに行ったり、渓流釣りなんてしていていました。
私は庭先の畑で、いろいろ野菜作っていたんですよ。楽しかった。私の作った野菜、美味しいって、近所の人達、喜んでくれていたのよ。喧嘩なんかしなかったわよ。年金、少なかったけど、二人で、野菜つくって、キノコとか取って、十分暮らして行けた。
 この人、今でも、もとの家に帰れると信じているの。一時帰宅の時、線量計がずっと鳴っていた。
家の中の、テーブルや仏壇、大事にしていた箪笥なんて、全く持ってこれない。私たちじゃ運べないし、そもそも、持ち出す時間がないし、持ってきても、仮設の二間の部屋じゃね置けない。前の家は平屋で、庭も広くてよかった。今みたいに、隣の話し声など聞こえないもの。今の仮設にはね、近所の人、ほとんどいないの。話す人いないのよ。
どこにも行かずに、仮設の中にばかりにいると、この人と喧嘩してしまうのよ。何にもやること無くなったわ。前は、農作業で毎日忙しかったし、楽しかった。買った野菜、美味しくないわね。月10万の賠償で、野菜や魚まで買わなきゃならない。昔なんて買ったことなかった。
もし帰れても、周りに子ども達がいないようなところじゃ、暮らせないわね。
東京電力に1回目の請求したら、もう仮払いで160万円払っているから、損害は130万円だから、0円というこの紙が来たの。どうしても、この合意書に判子押す気持ちになれなくて、相談に来ました・・・。

この老夫婦に代表されるように、今、この福島で10万人を超える人が故郷を追われ、いつ帰ることが出来るか、今後の生活はどうなるのかという不安の中で日々の生活を送っています。
原発事故は、このように、地域生活、コミュニティをそのものを根本から破壊してしまったのです。
その自然環境、経済、文化などは、根本から、ひとつひとつ、徹底的に破壊されてしまいました、
避難の強制は、それぞれの人生設計、生活に決定的に重大な影響が生じさせています。
学業の中断を余儀なくされたり、職を失ったり、思い描いていた職業に就く機会を奪われました。
経済的に豊かではなくても、山や川、海など自然の恵みによって精神的に豊かに生活を送るという当たり前の人間の営みが奪われてしまっています。
突然、大切な故郷から、何の予告もなく、着の身着のままで追い出され、地域社会がばらばらに分断されてしまっています。
長年かけて形成されてきた集落や地縁といったものが失われ、その中で長年継承されてきた伝統的文化が失われ、生産や学びの場が消失してしまいました。
故郷に置いて来ざるを得なかった家畜やペットの多くは餓死し、美しい故郷は不毛地帯と化しています。
愛する美しい故郷が汚染され、帰る場所も無いという「喪失感」によって気力を失いつつある人も数多くいるのです。

まさに、この福島で、このような基本的人権の侵害が続いているのです。
このような被害を受け続けている人々を救済するために、金銭賠償のみで足りるものではありません。
お金だけつかませ、この「本当の空がある福島」を「使い捨て」のような土地にすることは絶対に出来ません。

 そのためには、どうするべきでしょうか。
 賠償問題はきわめて重要な問題ですが、それに止まらず、「うつくしまふくしま」「ほんとうの空」を回復するために、まずは、徹底的な、環境回復のための措置を求める必要があります。

 放射性物質汚染対処措置法の「適当な」運用によって、除染ではなく、移染で、誤魔化されるようなことがあってはなりません。
 中間貯蔵施設が、最終貯蔵施設になり、福島が、世界の核のごみ集積場になってはなりません。

 帰還には時間がかかるかもしれません。しかし、我々の世代で、徹底的な環境回復措置をして、将来、我々の子孫世代に、本当に美しい福島、空気が澄んでいて、水がきれいで、野菜が新鮮で、魚がおいしい福島を残してあげなければなりません。

決議案の1番目の項目には、まさに、その環境回復措置についての願いが込められています。
今回の原発事故は「近代史上まれにみる大規模公害」でありますから、汚染者負担の原則から、国策で原発を推進した国と、東京電力は、徹底的に環境回復措置をとる義務があります。
そして、その除染等の環境回復措置には、私達自身のふるさとの環境回復のために、私達自身が手続きに参加する必要があります。まさに、決議案の1項目は、このような思いを記載したものであります。

次に、決議案の2項目ですが、私達は、現在、低線量放射線の環境の中で日々過ごさざるを得ない状態にあります。現実的な問題として、この地を捨てて逃げ出すわけにはいかないのです。
そうすると、もっとも大切なのは健康管理です。
長期的、継続的な健康管理により、せめて福島県民に健康面での不安を少しでも解消する必要があります。
このような継続的な健康管理により、子ども達を安心して育てることが出来る土地になるといえ、次世代にこの愛する福島を残してあげることができるのです。
このような思いが2項目に記載されています。

最後に、決議案の3項目の完全賠償、さらには、生活再建についてです。
我々が奪われたものは、決してお金では代替できないものです。本当は、我々が求めるものは、もとの生活の回復だけなのです。小さな幸せを返してほしいだけなのです。
しかし、当面、それが出来ないのであれば、せめて金銭による賠償がなされなければなりません。
ところが、実際にはどうでしょうか。

先の高齢者の賠償事例を思い出してください。あの高齢者夫婦が受けた損害は、たった130万円なのでしょうか。

また、自主避難地域に目をやれば、福島県内の一部地域に支払われる1回限りの8万円という賠償は、完全賠償の名に値するのでしょうか。
今、海、川、山を見ても、汚染されてるはず・・・という気持ちでしか見えません。外の空気に触れてすがすがしい気持ちになったことがありません。海、川などで遊んでいる人、釣りをしている人などほとんど見られなくなりました。福島の野菜、果物、お米、山菜、海産物などは、内部被曝を恐れながら食しなければならない対象となってしまったのです。外に出て深呼吸しようと思えません。
子供達は、外出するのにマスクと線量計をつけて行動しなければならなくなりました。幼い子供たちは、外遊びができず、ストレスを溜めているばかりか、体力的にも衰えが見られます。これを見ながら子育てしなければならない親達は、常に子供たちの将来への健康不安、他地域から差別されるのではないか、将来結婚できるのかなどの恐れに苛まれています。日常生活において、常に目に見えない放射性物質を恐れながら生活しなければなりません。例えば、洗濯物を外に干すということや、地元の食材を買うこと、家庭菜園で野菜を作ることも、放射性物質のことを考えながら、行動しなければならなくなりました。
一旦県外に出れば、「福島から来た者」ということでレッテルを貼られて差別されるのではないかと心配しなければならない。毎年帰省してきた子や孫も来なくなり、自慢の米や野菜を喜んで食べてくれる人もいなくなってしまったのです。
このような気持ちに、これから少なくとも30年間も日々苛まれて、1回限り8万円とのうのです。
1日あたりの損害は、8万円を30年で割ると、7円50銭です。
我々は、弁護士の責務として、福島県民が受けた損害の完全賠償に向けて立ち上がる必要があります。

他方、賠償というと、どうしても過去の損害に目が行くこととなります。
しかし、過去の賠償をされただけでは、「生活の再建」は出来ません。
当面の間、帰還できず、別の土地で生活をせざるを得ないのであれば、その生活の再建のための立法措置を採る必要があります。また、もとの土地に残るという人にも、インフラの整備が絶対に必要です。

福島復興再生特措法が制定されつつありますが、法人税優遇など、産業や雇用の確保という意味では、評価できる面もありますが、生活再建のためには、決議案の3項目にあるとおり、各種社会インフラ(居住、教育、介護、医療、地域コミュニティの維持・創設、地域振興などまで、きめ細やかなサポートをする必要があるのです。

平成23年3月11日、多くの人が亡くなり、私達は、たまたま生き残りました。
生き残ったからには、亡くなった人の分まで、その責任を果たさなければなりません。
そして、我々弁護士には、さらに、それ以上に、基本的人権の擁護と社会正義の実現という社会的使命があります。
この福島で起こっている基本的人権の侵害に対し、手をこまねいていたり、権益やプライドを固持している場合ではないのです。
この基本的人権の危機に対し、今こそ、我々は、努力しなければなりません。
そして、弁護士法1条2項に規定されているように、基本的人権の擁護と社会正義の実現のために「法律制度の改善に努力」する義務があるのです。
この決議案に採択し、いつの日か、美しい、愛する故郷「ふくしま」を取り戻すために、ともに努力していくことを誓い、この決議案に対する賛成討論とさせて頂きます。

・・・
引用終わり

カテゴリー: 東電賠償